4-20 人買い
40年ほど前まで、和歌山市で川端などへ遊びに出る子供を、母が戒めるのに、日向の人買船に連れて行かれて炭を焼かせられると言った。そのころにそのようなことがあるはずがないが、ずっと昔に日向から遠国へ人買が出て、連れ去った人を炭焼きに苦使したときの戒めが遺ったらしい。
謡曲「隠岐院」に「人買人、今日は東寺辺り、作道の辺りで人を買いたいものだと思います。中略、声を立てられたら叶わないと、髪を取って引き伏せて綿轡をむずとはめ、畜生道に落ちて行くかと、泣き声さえも出ないので云々」。
帝国書院刊行塩尻54巻に「人を捕らえて、拘引して売った者、猿轡といって、物を言おうとすれば舌を切る物を含ませたとのこと。近世にも、出羽国南郷などでは、盗賊がいて人を欺き、猿轡を含ませたとか」。猿轡、綿轡は同じ物か。人買とは、人身売買の意味だが、じつは人を拘引する者を呼んだ名らしい。