4-11 女に化けるアナグマ
アナグマを西牟婁郡で「めだぬき」「つちかい(土掻きという意味)」また「のーぼ」という。安堵峰で予はその肉を味噌で煮て食うとはなはだ甘かったが、いっしょに煮る野菜が絶無で困った。
この物は熊同様足に掌があり、人のように立つことができる。好んで女に化けるという。富里村の人(現存)が春の日、ワラビ採りに山へ行くと、かんざしを挿した若くすこぶる艶やかな女が立っていた。よって足を進めて近づいてみるとたちまち見えなくなった。立っていた所に穴があり、家に帰って犬を伴って来て、穴を捜してアナグマを捕らえた。
また下秋津村生まれで予が知っている老人は、若いとき村の女と密会を約束した場所へ行って待っていると、この獣がその女に化けて来て、たちまち消え失せるなどして毎度困らされた、その辺りでは「せい」と呼ぶ、とのこと。