紀州俗伝(現代語訳3-4)

紀州俗伝(現代語訳)

  • 3-1 師走狐
  • 3-2 狐の仕返し
  • 3-3 ホタル来い
  • 3-4 雀と燕
  • 3-5 今生まれた子限り
  • 3-6 カイコの舎利
  • 3-7 月の8日
  • 3-8 欲深いシャレ
  • 3-9 2つの鐘
  • 3-10 比丘尼剥
  • 4-1 師走狐の鳴き声
  • 4-2 雨乞いの池
  • 4-3 フクロウと天気
  • 4-4 ホタル来い
  • 4-5 鰹鳥
  • 4-6 宵の蜘蛛、朝の蜘蛛
  • 4-7 他人の足の裏
  • 4-8 狐と硫黄
  • 4-9 早口言葉
  • 4-10 狼を山の神と
  • 4-11 女に化けるアナグマ
  • 4-12 葉巻煙草
  • 4-13 一文蛤
  • 4-14 高野山の井戸
  • 4-15 蝸牛の囃し詞
  • 4-16 壁の腰張り
  • 4-17 ムカデとマムシ
  • 4-18 足のしびれを直す方法
  • 4-19 熊野詣の手鞠唄異伝2
  • 4-20 人買い
  • 4-21 ホオズキ
  • 4-22 玄猪
  • 4-23 茶釜の蓋
  • 4-24 コオロギの鳴き声
  • 4-25 トンボ捕り
  • 4-26 そばまきとんぼ
  • 4-27 木偶茶屋
  • 4-28 七つ七里
  • 4-29 油虫

  • 3-4 雀と燕

     

     田辺近傍の里伝に、昔、雀と燕姉妹の所に親が臨終との知らせが来た。燕は衣を替え正装して行ったので親の死に目に逢えず、雀はおはぐろが付いていたが事は急だと聞いてすぐにそのまま飛んで行って死に目に逢えた。そのため雀は体の色は美しくなく頬に黒く汚れた斑があるが、始終米粒その他旨い物を多く食う。燕は全身が光り美しいけれど、不孝の罰で土ばかり食うと。

    去年死んだ英国の昆虫学大家ウィリアム・フォーセル・カービーは20年ばかり前、予が西インドで集めた虫類を度々調べてくれた在英中の知人だった。専門の方に大英博物館半翅虫目録など多くの著述があった傍ら、古話学に精通し、故バートンがアラビアンナイトの全訳を済ませたときも、とくにカービー氏のアラビアンナイト諸訳本及び模作本の解説を請うて巻末に付したほどの名人だった。

    氏の著「エスソニア英雄僧」(1895年版)巻2にエスソニアの燕の縁起を説いて言うには、いつも酔っぱらっている男の妻が膝の辺りに子を載せて布を織る。その日の格好は頭に黒布、首に赤切れ、白い下衣に黒い下裳だった。そこへ酔った男が帰って来て妻を押しのけ、斧で織った布を断ち、拳で児を殺し、ついでに妻を打って気絶させた。大神がこれを憐れみ、即座に妻を燕に変えさせたが、逃げようとする鳥の尾を夫が小刀で切ったから雨峡となった。それから燕は当時の不幸を悲しみ、鳴き止まずに飛んで行くが、他の鳥と異なり人を恐れず、家の内に来て巣を作るとある。本条に多少関係があるので、知人の記念にちょっと付記する。

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    「紀州俗伝」は『南方随筆』(沖積舎) に所収。

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