蛇に関する民俗と伝説(その12)

蛇に関する民俗と伝説インデックス

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  • 蛇の効用
  • (付)邪視について
  • (付)邪視という語が早く用いられた一例

  • (蛇と方術2)

     三河国池鯉鮒ちりふ大明神の守符、蛇の害を避く。その氏子の住所は蛇なく、他の神の氏子の住所は、わずかにこみちを隔つも蛇棲む。たといその境まじるもかくのごとし(『甲子夜話』続篇八〇)。和歌山近在、矢宮より出す守符は妙に蝮にく。蝮を見付けてこれをげ付くると、麻酔せしようで動く能わずというが、予尋常なみの紙を畳んで抛げ付けても、暫くは動かなんだ。世に蝮指というは、指を緊張して伸ばし、先端の第一関節のみ折れ曲がりて、蛇の鎌頸状を成すので、五指ことごとくそうなるを苦手にがてといい、蛇その人を見れば怖れて動かず、自在に捕わるそうだ(『郷土研究』四の五〇二)。

    予の現住地の俗信に、蝮指の爪は横に広く、しゃくを抑うるに効あり、その人手が利くという。拙妻は左手のみ蝮指だから、亭主まさりの左ききじゃなかろうかと案じたが、実は一滴もいただけませんから安心しやした。それからまた、苦手の人蟹を掴み、少時経つとその甲と手足と分れてしまうという、『仏説穣麌梨童女経』は、蛇を死活せしむる真言を説いた物だ。

     蛇で占う事、『淵鑑類函』四三九に、『詩経類考』を引いて、江西の人、菜花蛇てふ緑色の蛇を捕え、そのわだかまる形を種々のと名づけ、禍福を判断し俚俗これを信ずとづ。『酉陽雑俎』に、蛇つるむを見る人は三年内に死す。ハツリットの『諸信および民俗フェース・エンド・フォークロール』二に、古ローマ人は蛇の動作を見てうらのうた。ロッス説に、水蛇と陸上の蛇の闘いは、人民の不幸を予示すと。アツボットいわく、マセドニア人、首途かどでに蛇を見れば不吉として引き還すと。

    ラームグハリット言う、ニルカンス鳥は、女神シタージの使物として、インドに尊ばる帽蛇、蛙をくわえ、頭にこの鳥を載せて川を渡るを見る人は、翌年必ず国王となると。南方先生裸で寝て居る所へ、禁酒家の娘が百万円持参で、押し付け娵入よめいりに推し懸くるところを見た人はという事ほど、さようにあり得べからざる事である。


     ハツリット説に、一八六九年アルゼリアのコンスタンチナ市裁判所で、夫が妻の貞操を疑うて、その鼻と上唇をった裁判あった時、妻の母いわく、この男は悋気りんき甚だしいから、妾それを止めんとて、高名な道士に蛇の頭を麻の葉につつんでもらい、婿の頭巾のひだの中へ入れるつもりでしたと言い、傍聴人に向って、何とこの法が一番能く利くでありませぬかと問うと、たちまちアラブ人数名頭巾を脱いで、銘々そうともそうとも、吾輩も悋気がえらいからこの通りと言って、くだん禁厭品まじないものを取り出し示したが、陪席の土人官員一名、また判官の問いをもたず、僕も妻について焼かぬ間もなしだから、この通り蛇頭を戴きおります、蛇頭は男子を強力、女人を貞実ならしむる物ですと述べたそうだ。

    ブラックの『俚薬方篇フォーク・メジシン』五九頁に、英国サセックスの俗頸れた時、蛇を頸の上にきずり、びんに封じ固く栓して埋めると、蛇腐るに随って腫れ減ずと見ゆ。これは英国で、蝸牛かたつむりや牛肉や林檎りんごいぼを移し、わがくにでも、鳥居や蚊子木葉いすのきのはに疣を伝え去るごとく、頸の腫れを蛇に移すのだ。紀伊、伊勢等で蛇の屍を丁寧に埋め、線香供え日参すれば、歯痛癒ると信じ、予小時毎度頼まれて蛇を殺した。中世スペインの天主教名僧、ロムアルドの遺骸を、分配供養して功徳とせんと、熱心の余り、上人しょうにんを殺さんとしたごとし。今となっては仔細判らざれど、初めは蛇の屍で歯をで、痛みを移して埋めたであろう。三河で病人久しく一の場所で臥せば、青大将に血を吸わるという(『郷土研究』三の一一八)。

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    「蛇に関する民俗と伝説」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

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