蛇に関する民俗と伝説(その6)

蛇に関する民俗と伝説インデックス

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  • 蛇の効用
  • (付)邪視について
  • (付)邪視という語が早く用いられた一例

  • (身の大きさ)

         身の大きさ

     ベーツの『亜馬孫河畔の博物学者ゼ・ナチュラリスト・オン・ゼ・リヴァー・アマゾンス』アナコンダ蛇が四十二フィートまで長じた事ありと載せ、テッフェ河汀で小児が遊び居る所へアナコンダが潜み来て巻き付いて動き得ざらしめその父児のくを聞きて走り寄り、奮って蛇の頭を執らえ両あご※(「てへん+止」、第3水準1-84-71)き裂いたと言う。

    錦絵や五姓田ごせだ氏の油絵で見た鷺池平九郎の譚もまるで無根とも想われぬ。アマゾン辺の民一汎いっぱんに信ずるはマイダゴア(水の母また精)とてたけ数百フィートの怪蛇あり、前後次第して河の諸部に現わると。

    千一夜譚サウザンドナイツ・エンド・ア・ナイト』に海商シンドバッド一友と樹に上り宿すると夜中大蛇来てその友を肩からみおわりきびしく樹幹をまとうて腹中の人の骨砕くる音が聞えたと出で、有名な東洋ゴロ兼法螺ほらの日下開山かいさんピントはスマトラで息で人殺す巨蛇に逢ったといい、ドラセルダ、ブラジルのサンパウロを旅行中そのしもべ大木の幹に腰掛くると動き出したからよくると木でなくて大蛇だったと記した。

    山海経せんがいきょう』に巴蛇はじゃ象を呑む、一六八三年ヴェネチア版ヴィンセンツオ・マリヤの『東方行記イル・ヴィアジオ・オリエンタリ』四一六頁にインドのマズレ辺に長九丈に達する巨蛇ありて能く象を捲き殺す、その脂は薬用さる、『梁書』に〈倭国獣あり牛のごとし、山鼠と名づく、また大蛇あり、この獣を呑む、蛇皮堅くしてるべからず、その上孔あり、はやく開き乍く閉づ、時にあるいは光あり、これを射てあつれば蛇すなわち死す〉。

    日本人たるわれわれ何とも見当の付かぬ珍談だが何か鯨の潮吹しおふきの孔などから思い付いた捏造ねつぞう説でなかろうか。

    昔ローマとカルタゴと戦争中アフリカのバグダラ河で長百二十フィートの蛇がローマ軍の行進をさえぎった。の名将レグルス兵隊をして大弩おおゆみ等諸機を発して包囲する事塁砦るいさいを攻むるごとくせしめ、ついにこれを平らげその皮と齶をローマの一堂に保存した(プリニの『博物志ヒストリア・ナチュラリス』八巻十四章)。

    北欧の古伝に魔蛇ヨルムンガンド大地を囲める大洋にありて尾を口にくわえ大地をめぐり、動く時は地震起る(マレー『北方考古篇ノルザーン・アンチクイチース』)。インドの教説に乳洋中にシェシャ蛇ありて常紐天ヴィシュニュその上に眠る。この蛇頭に大地を戴く。

    山海経』に〈崑崙こんろん山西北に山あり、周囲三万里、巨蛇これを繞り三周するを得、蛇ために長九万里、蛇この上におり、滄海そうかいに飲食す〉。十六年ほど前アンドリウスはエジプトで長六十フィートなる蛇の化石を発見した。

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    「蛇に関する民俗と伝説」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

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