7-13 リスは魔物
Écureuil roux -- Red Squirrel (portrait) / Gilles Gonthier
由良村の辺でリスは強い者で犬も困ると言う。その様子を聞くと尋常の小さいリスではない。大きな種「をかつき」のことだ。
西牟婁郡二川村大字兵生で聞いたのは、リスは魔物で1匹殺したら殺した辺りリスだらけに現われる。このように魔術を心得たものなので同地方で聞いた猿退治の話(郷研1巻170頁)でもリスを山伏としているのだと言う。
予は深山で何度と言えないほどリスに遭ったが、あまり人を畏れる様子は見えない。追えば木を回りながら登り、たちまち枝の上に座して手を合わせて祈念するような恰好をする。これからこのような迷信を生じたのだろう。これに加えて尾を上げて頭に戴く姿がまた山伏が笈を背負って頭巾をかぶっているのに似ている。
松屋□□九五に高忠聞書上に射てはならない鳥のこと、ウグイス・トビ・フクロウ・ミミズク・セキレイ・ニワトリ・ リス・ムササビ・タカのことは申すまでもなく、この鳥どもを射てはならないのだ、リスを射ない理由は聖武天皇が堅固な城を破り開いたその謂れで射ないように定め置かれたのだ云々。この故事は詳らかに知れないが、とにかく昔から殺すのをはばかった動物のなかにリスがあったのだ。
リスの歯は強く鉄のようで、鉄綱を用いなければ籠を噛み破って逃げると『和漢三才図会』三九に見える。したがって何かの法で鉄籠を破って逃げるという話もあったのだろう。
龍樹大士の大智度論第三十三に(以下略)