(名義3)
英語でサーペントもスネイクも、蛇とは誰も知り居るが、時にサーペントおよびスネイクと書いた文に遭う。その時は前者は人に害を加うる力ある蝮また蟒蛇等でその余平凡な蛇が後者だ。ヴァイパーとは上顎骨甚だ短く大毒牙を戴いたまま動かし得る蛇どもで、和漢の蝮もこれに属するからまず蝮と訳するほかなかろう。
それからアスプといってエジプトの美女皇クレオパトラが敵に降らばその凱旋行列に引き歩かさるべきを恥じこの蛇に咬まれて自殺したとある。これはアフリカ諸方に多いハジ蛇なりという。これは既述竜の話中に図に出したインドのコブラ・デ・カペロ(帽蛇)に酷似るが喉後の眼鏡様の紋なし。
インドで帽蛇を神視しまた蛇遣いが種々戯弄して観せるごとく古エジプトで神視され今も見世物に使わる物である。帽蛇は今も梵名ナーガで専ら通りおり、那伽は漢訳仏典の竜なる由は既述竜の話で繰り返し述べた。
また仏教に摩羅伽てふ一部の下等神ありて天、竜、夜叉、乾闥婆、阿修羅、金翅鳥、緊那羅の最後に列んで八部を成す。いずれも働きは人より優だが人ほど前途成道の望みないだけが劣るという。この摩羅伽は蟒神には大腹と訳し地竜にして腹行すと羅什は言った。竜衆すなわち帽蛇は毎度頭を高く立て歩くに蟒神衆は長く身を引いて行くのでこれは※蛇[#「虫+冉」、229-2]を神とするから出たのだ。
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「蛇に関する民俗と伝説」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収