15-2 血を吸わない蛭
血を吸わない蛭 『郷土研究』1巻12号に、日高郡上山路村殿原の谷口という小字の田の中に晴明の社という小祠があり、この田に棲む蛭が、大きさも形も尋常の蛭に異ならないが、血を吸わず、医療のために捕えても益なし、と書いたが(紀州俗伝 現代語訳7-4)、そればかりではおもしろくない。
昨年5月そこから知人が来たので、とくと尋ねると、晴明がここの蛭に血を吸われて、怒ってその口を捻った。それから一向に血を吸わなくなった。川ひとつ渡ったナガソウという小字には蛭がすこぶる多く、いたって血を吸う力が強いゆえ、医療用として多く捕られるという。
また西牟婁郡旦来村の不動坂の辺りに地蔵庵がある。その地蔵を念ずれば安産で、また村人は祈願して蛭を調伏する。ゆえにこの辺りの蛭は人を刺さないと聞く。