14-1 打出の小槌
打出の小槌の童話 紀州に伝わる打出の小槌の童話。小生は久しく忘れ気付かずにいたが、昨夜4歳になる小生の女児に聞き(童話はなるべく子供が語るところが真に近い)、そして妻に聞いた上、左に申し上げます。多分紀州だけに限らない話と存じます。グリムのドイツ童話、その他イタリア、ポルトガルなどにも大略同じ話が多いが、槌のことはありません。
「むかし継母が継女を甚だしく憎み、林の中に柯子を拾いに遣るのに、自分が生んだ女には尋常のかごわ渡し、継女には底の抜けたかごを与える。林に入り柯子を拾うが、継女はどんなに努めて拾ってもかごの底を漏れ落ちていっぱいにならない。実の女は継女のかごから漏れるのを拾い、容易にかごを満たして去る。継女はかごをいっぱいにできずに林の中で日が暮れる。
泣いていると遠方にかすかな燈影がある。そこで尋ねて行くと老媼がひとりいる。入って、わけを語ると、老媼がこれを憐れみ、どんなことがあっても物を言ってはならないと教え、床の下に潜ませた。夜に入って家主の鬼が帰り、人臭い人臭いと言う。媼は誰も人は泊めていないと言う。鬼は安心して眠る。媼は握り飯を床の下に落とし、かの少女に食わす。鬼が目覚めて何をすると言うと、媼は今夜は簀の子(床のこと)の祭であると言う。
ところが少女は耐えられず咳をする。鬼はさて人がいるに決まったと言って床をまくり少女を見つけて喰らおうとする。老媼は遮り止めて、その継母に苛遇されている状態を説く。鬼は諺の鬼の眼にも涙を出し、不憫なことなので吾が難を解いてやろうと言って槌ひとつを与え、汝は家に帰りこれを母に呈せよと教える。
女が家に帰ると、継母がなぜ遅れたのかと怒る。女はかの槌を母に献じ、罪を許せと乞う。母は大いに怒り、こんな物いらぬと言って槌を抛り付けると夥しく銭が出る。これは宝を打ち出す槌だと知り、貴宝を得たのを喜び、それよりこの継母は女を実子同然に愛したということだ」
右の簀子の祭とは何のことか。御承知の読者は教示せられんことを望む。