馬に関する民俗と伝説(その43)

馬に関する民俗と伝説インデックス

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  • (付)白馬節会について

  • (心理10)



    ここに一言するは同姓婚と母系統は必ずしもともに行われず、しかしフレザーが言った通り、母統を重んずるよりやむをえず同姓婚を行う場合もあるにちなんで、一緒にその事どもを述べたので、ふたつながらそれぞれれっきとした訳があり、決して無茶苦茶な乱風でない。

    さて上に引いた至親の同姓婚を畜生がじて自害自滅したのが事実ならば、ある動物に羞恥の念ある証としてすこぶる有益だが、これを例に採ってことごとく同姓婚を行うた古人を畜生劣りと罵るべきでない。既に挙げたヘラクレスのごとく自分の血統を重んずる一念よりかく行うた者ありて、自分の血統を重んずる一事が人畜間の距離絶大なるを示す所以ゆえんだから。

     『大般涅槃経』に馬ししの臭いを怖るといい、『十誦律毘尼序』にはその脂を脚に塗らば象馬等いで驚き走るという、ラヤード言う、クジスタンの馬獅近づけば見えもせぬに絆を切って逃げんとす、諸酋長しゅうちょう獅の皮を剥製はくせいし馬をして見れ嗅ぎ狎れしむと。菅茶山かんちゃざん曰く狼は熊に制せられ馬を殺す、しかるに熊は馬を怖ると(『筆のすさび』五一章)。

    馬また象と駱駝をおそれ(ヘロドトス、一巻八十章、テンネント『錫蘭セイロン博物志』二章参照)、蒙古の小馬ポニーや騾はひどく駱駝を怖れる故専ら夜旅させ、昼間これを駱駝のみの宿にやどす(ヘッドレイ『暗黒蒙古行記トランプス・イン・ダーク・モンゴリヤ』五四頁参照)。

    淵鑑類函』に、『馬経』を引いて馬特に新しい灰を畏る、駒がこれに遇わば死す、『夏小正』に仲夏の月灰を焼くを禁じたはこの月馬駒を生むからだと見ゆ。ベーカーの『ゼ・ナイル・トリビュタリース・オヴ・アビシニア』に、氏が獅子を銃する時落ち着いて六ヤードの近きに進み、獅子と睨み合いてしりぞかなんだ勇馬を記す。して見ると禀賦と訓練で他の怖ろしがる物を怖れぬ馬もあるのだ。

    ※(「金+今」、第3水準1-93-5)こけんけい』巻十に、さるを馬坊内に養えば患をかいを去るとありて、和漢インド皆厩に猴を置く。『菩提場経』に馬頭尊の鼻を猿猴のごとく作る。猴がさわぐと馬用心して気が張る故健やかだと聞いたが、馬の毛中の寄生虫をひねる等の益もあらんか。

    また上述乾闥婆部の賤民など馬と猴に芸をさせた都合上この二獣を一所に置いた遺風でもあろう。一八二一年シャムに往った英国使節クローフォードは、シャム王の白象べやに二猴をも飼えるを見問うて象の病難よけのためと知った由。

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    「馬に関する民俗と伝説」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

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