馬に関する民俗と伝説(その23)

馬に関する民俗と伝説インデックス

  • 伝説一
  • 伝説二
  • 名称
  • 種類
  • 性質
  • 心理
  • 民俗(1)
  • 民俗(2)
  • 民俗(3)
  • (付)白馬節会について

  • (種類2)



     さて現存の馬属の諸種を数えると、第一に馬、これに南北種の別ありて、アラブやサラブレッドが南種で、その色主に赤褐で、しばしば額に白星あり、※(「穴かんむり/果」、第3水準1-89-51)めあなの前少しく窪む、北種はその色主に帯黄黯褐あんかつで、眼の辺に窪みなし。 北欧の諸小馬ポニー、蒙古の野小馬等がこれじゃ。

    次にアジアの野驢、これは耳大にも小にも過ぎず、尾は長い方、背条黯褐で、頭より尾に通り※(「髟/宗」、第4水準2-93-22)たてがみあり。これに二種あり。蒙古のチゲタイと、その亜種チベットのキャングは大にして赤く、西北インド、ペルシア、シリア、アラビヤ等に出るオナッガは、黄赭また鼠色がかりいる。いずれも二十から四十疋まで群れて、沙漠や高原を疾く走る。オナッガは人を見れば驚き走り、安全な場に立ち留まり、振り返って追者を眺め、人近づけばまた走り、幾度となくここまで御出おいでを弄す。古カルデア人、いまだ馬を用いるを知らなんだ時、これを捕えて戦車をかしめた(第三図[#図省略])。

    本草綱目』に、〈野驢は女直じょちょく遼東にづ、驢に似て色ぶち※(「髟/宗」、第4水準2-93-22)尾長〉といったはチゲタイで、〈野馬は馬に似て小、今甘州粛州および遼東山中にもまたこれあり、その皮を取りてかわごろもす、その肉を食い、いわく家馬肉のごとし、ただし地に落ちて沙にれず〉とあるは、いわゆる蒙古の野小馬ワイルド・ポニー一名プルシャワルスキ馬だろうが、昔は今より住む所が広かったらしい。

    支那最古の書てふ『山海経』に、〈旄馬ぼうばそのかたち馬のごとし、四節毛あり〉、『事物紺珠かんじゅ』に〈旄馬足四節ばかり、毛垂る、南海外に出づ〉。今強いてかかる物を求むれば、キャングは極寒の高地、海抜一万四千フィートまで棲む故、旄牛ヤクと等しく厚い茸毛じょうもうを被るから、まさしく旄馬と呼んで差しつかえぬ。

     次に花驢しまうまにゼブラとドーとクワッガとグレヴィス・ゼブラの四種あったが、ゼブラは絶えなんとしおり、クワッガは絶え果て、ドーも本種は絶えて、変種だけ残る。これら皆アフリカ産で、虎様の条ありて美し、『山海経』に、
    ※(「木+丑」、第3水準1-85-51)ちゅうようの山、獣あり、その状馬のごとくして白首、そのもん虎のごとくして赤尾、その音うたうがごとし、その名鹿蜀ろくしょくという〉
    と出で、その図すこぶる花驢に類す。

    呉任臣の注に、
    〈『駢雅べんが』曰く鹿蜀虎文馬なり云々、崇禎すうてい時、鹿蜀※(「門<虫」、第3水準1-93-49)びんなんに見る、崇徳呉爾□詩を作りこれを紀す〉
    と。

    熊楠あんずるに、チゲタイわかい時、虎条あること花驢に同じければ、拠って以て鹿蜀を作り出したものか。『駢雅』など後世の書に出たは、多少アフリカの花驢を見聞して書いたのだろう。

    back next


    「馬に関する民俗と伝説」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

    Copyright © Mikumano Net. All Rights Reserved.