1-5 熊野詣の手鞠唄異伝
熊野詣の手鞠唄の異伝に、「燈心で括って田辺へ売りに往て、売れなんで、内に持って来て煮いて、 一切食や旨し、二切食や旨し、三切目に屁放って、田辺へ聞こえた」。また、「 西宮の和尚様が、火事やと思うて、太鼓叩いて走った」。
放屁のことを付けたのは主として子供をおもしろがらせたのだ。アラビアンナイトは大人に聞かす物だが、回教徒がキリスト教徒を取って投げると、多くはキリスト教徒が放屁するとある。そこを演じる度に、聴衆は感極まって大呼動すると、バートンの目撃談だ。
40年ばかり前まで、和歌山市の小児は夕時に門辺に集まって「岡の宮の巫女殿は、舞を舞うとて放屁て、鍋屋町へ聞こえて、鍋3つ破れて、鍋屋の爺様怒って、ヨー臭い臭いよ」と唄って舞ったものだ。岡の宮は聖武帝行宮の跡で、猿田彦を祀り、市中に今も社がある。鍋屋町は昔、鍋釜を作る者だけが住んだ町である。