馬に関する民俗と伝説(その55)

馬に関する民俗と伝説インデックス

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    『法苑珠林』五三に竜樹の成立なりたちを述べて、
    〈南天竺国、梵志の種の大豪貴の家に出づ、云々。弱冠にして名を馳せ、ほしいままに諸国を歩み、天文地理、星緯図讖としん、および余の道術、綜練せざるは無し。

    友三人あり、天姿奇秀なり。あいともに議して曰く、天下の理義は、神明を開悟し、幽旨を洞発し、智慧を増長す。かくのごときの事は、われら悉く達せり、更に何の方を以て、自ら娯楽せんかと。

    またこの言をなす。世間ただ好みて情をはなち欲を極むるを追い求むるあり、最もこれ一生上妙の快楽なり。宜しく共に隠身の薬を求むべし。事もしかく果たさば、この願い必ずらん。みな言う、善哉、この言甚だ快しと。すなわち術処に至り、隠身の法を求む。

    術師念いて曰く、この四梵志は、才智高遠にして大※(「りっしんべん+喬」、第3水準1-84-61)慢を生じ、群生を草芥とするも、今は術の故を以て、屈辱して我に就く。然れどもこの人、研究博達し、知らざる所は唯だこの賤術のみ。もしその方を授くればすなわち永く棄てられん。しばらくかの薬を与え、これを知らざらしめん。薬尽きなば必ず来たって、師資久しかるべしと。

    すなわち便ただちにおのおのに青薬一丸を授け、而してこれに告げて曰く、汝この薬を持ち、水を以てこれをき、って眼臉に塗らば、形まさに自ずから隠るべしと。

    いで師の教えを受け、各この薬を磨くに、竜樹かおりぎてすなわち便ただちにこれを識る。数の多少を分かつに、錙銖ししゅも失うなし。かえりてその師に向い、具さにこの事をぶるに、この薬満ち足りて七十種あり、名字・両数皆その方のごとし。

    師聞きて驚愕し、その由る所を問うに、竜樹答えて言う、大師まさに知るべし、一切の諸薬は自ずから気分あり、これに因りてこれを知る、何ぞ怪しむに足らんやと。師その言を聞き、いまだかつてあらずと嘆じ、すなわちこれなるおもいをす。

    この人のごときはこれを聞くもなお難し、いわんや我親しく遇いたり、而してこの術を惜しまんやと。すなわちその法を以て具さに四人に授く。四人法に依りて此の薬を和合し、自ずからその身をかくし、游行自在なり。すなわち共に相ひきいて、王の後宮に入る。

    宮中の美人、皆侵掠され、百余日の後、懐妊する者おおく、いで往きて王にもうし、罪咎ざいきゅうを免れんとねがう。王これを聞きおわりて、心大いに悦ばず、云々。

    時に一臣あり、すなわち王にもうして言う、およそこの事はまさに二種あるべし。一はこれ鬼魅にして、二はこれ方術なり。細土を以て諸門の中に置き、人をして守衛せしめ往来する者を断つべし。

    もしこれ方術なれば、その跡自ずから現わる。し鬼魅の入るならば、必ずその跡無からん。人なれば兵もて除くべく、鬼なればまさにいのりて除くべしと。王その計を用い、法に依りてこれを為すに、四人の跡、門より入るを見る、云々。

    王勇士数百人をって、刀を空中に振るわしめ、三人の首を斬る。王に近きこと七尺の内に、刀の至らざる所あり。竜樹身をおさめ、王に依りて立つ。ここに於て始めて悟る、本の苦を為さんと欲して、徳を敗り身を※(「さんずい+于」、第3水準1-86-49)おじょくせりと。すなわち自ら誓いて曰く、我もし脱るるを得て、この厄難を免るれば、まさに沙門にいたって出家の法を受くべしと。

    既に出て山に入り、一仏塔に至り、欲愛を捨離し、出家して道をおさむ。九十日にして閻浮提のあらゆる経論を誦し、皆ことごとく通達す〉。

    それより竜宮に入って深奥の経典を得、大乗の祖師となり、大いに仏法を興したそうだ。隠行の香薬とは、支那で線香をいて人事不省たらしめて盗みを行う者あるごとく、特異の香を放ち、守衛を不覚にして宮中に入ったのであろう。

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    「馬に関する民俗と伝説」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

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