(概説の7)
野生の鶏種々あるがまずは四種とする。英語で総称してジャングル・ファウル(藪鶏)と呼ぶ。第一赤藪鶏は疑いなく一切家鶏の原種で、前インドより後インドの森林と竹藪に棲み、フィリッピン島近きチモン島にもあり。形色すこぶるショウコクに類し、畑を刈った跡へ十羽から二十羽まで群を成して荒しに来る。鳴く声バンタムに似たれど長く引かず、正月より七月の間に乾草や落葉を掻き集めた上に八より十二卵を生むという。
熊楠案ずるに、『和漢三才図会』に家鶏日々一卵ずつ生むをその都度取り去れば幾つともなく生み続けて数定まらず、もし取らずに置けば十二卵を生んでやむとあるに
あるごとし。
次は灰色藪鶏、インドにのみあり、頸毛の茎膨大して角板となり、その尖端黄臘を点ぜるごとし。その声異様にて形容しがたし。藪中で家鶏と交わり卵を生めど、その雛長じても子を産まず。赤藪鶏と近く棲む所では間種を生ずれど、それもまた種を続けず。
第三にセイロン特産のシンガリース藪鶏、また家鶏に似るが、胸赤く、冠黄で、縁赤く、頬と
が紫赤し。その声清けれどきれぎれに「ジョージ・ジョイス」と呼ぶごとし。家鶏と雑種を生じやすいが種続かず。山の低い部分に住む。
第四はジャワ等諸島に住むガルス・ヴァリウス、全く頷毛なく冠大にして切り込みなく、頷垂れただ一なるのみ、羽色多く緑で家鶏との間種は稀に種を伝う。
(大正十年十二月、『太陽』二七ノ一四)
底本:「十二支考(下)」岩波文庫、岩波書店
1994(平成6)年1月17日第1刷発行
底本の親本:「南方熊楠全集 第一・二巻」乾元社
1951(昭和26)年
初出:1「太陽 二七ノ一」
1921(大正10)年1月
2「太陽 二七ノ二」
1921(大正10)年2月
3「太陽 二七ノ三」
1921(大正10)年3月
4「太陽 二七ノ五」
1921(大正10)年5月
5「太陽 二七ノ一四」
1921(大正10)年12月
入力:小林繁雄
校正:門田裕志、仙酔ゑびす
2009年5月4日作成
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「金+殺」 | 140-14、144-14 | |
「示+禺」 | 146-7 | |
「寨」の「木」に代えて「禾」 | 176-10 | |
「こざとへん+亥」 | 208-2 |