田原藤太竜宮入りの話(その30)

田原藤太竜宮入りの話インデックス

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  • (竜の起原と発達7)

    それから前文中しばしば言った通り、今一つ竜なる想像動物の根本たりしは※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)で、これは従前蜥蜴群の一区としたが、研究の結果今は蜥蜴より高等な爬虫の一群と学者は見る。現在する※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)群が六属十七種あって、東西半球の熱地と亜熱地に生ず。

    インドに三種、支那の南部と揚子江に各一種あり、古エジプトや今のインドで※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)を神とし崇拝するは誰も知るところで、以前は人牲を供えた。近時も西アフリカのボンニ地方や、セレベス、ブトン、ルソン諸島民は専ら※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)を神とし、音楽しながらそのすみかに行き餌と烟草をたてまつった。

    セレベスとブトンでは、これを家に飼って崇敬した。アフリカの黒人も※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)家近く棲むを吉兆として懼れず(シュルツェ著『フェチシスムス』五章六段)。バンカ島のマレー人は※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)の夢を吉とし婦人に洩らさず(エップ説)。マダガスカルの一部には※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)を古酋長の化身とし、セネガル河辺では※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)物を取れば祝宴を開く(シュルツェ同上)。

    フィリッピンのタガロ人は※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)に殺された者、雷死刃死の輩と同じく虹の宮殿に住むとした(コムベス著『ミンダナオおよびヨロ史』一八九七年マドリッド版六四頁)。ソロモン諸島人は※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)が餌を捉うるに巧智極まる故、人のほかに魂あるは※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)のみと信ず(一九一〇年版ブラウン著『メラネシアンスおよびポリネシアンス』二〇九頁)。

    ラワルニゲリア人は※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)は犯罪ある者にあらずんば食わずとてこれをその祖先神または河湖神とし、殺さばそのとどまる水ると信じ、また※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)その身にかつて※(「口+敢」、第3水準1-15-19)くろうた人の魂をかくすという(レオナード『ラワルニゲルおよびその諸民族エンド・イツ・トライブス』)。ボルネオには虎と※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)を尊び、各その後胤こういんと称し、これを盾に画く者あり(ラツェル『人類史ヒストリー・オヴ・マンカインド』)。

     これらの諸伝説迷信はいずれも多少竜にも附存す。レオ・アフリカヌスがナイル河の※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)、カイロ府より上に住むは人を殺し、下に住むは人をらずといえるも、竜に善性と兇悪あるてふに似たり。

    昔ルソンで偽って誓文した者※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)に食わるとし(一八九〇年版アントニオ・デ・モルガ『菲列賓諸島誌スセソス・デ・ラス・イスラス・フィリピナス』二七三頁)、一六八三年版マリア法師の『東方遊記イル・ヴィアジオ・オリエンタリ』四一五頁にいう、マラバルの証真寺に池あり、多く※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)を養い人肉を与う。これを証真寺というは、疑獄の真偽をたださんため本人を池に投ずるに、その言真なれば※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)これをゆるし偽なれば必ず※(「口+敢」、第3水準1-15-19)う。偽言の輩僧に賄賂してまじないもて※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)を制しおのれ※(「口+敢」、第3水準1-15-19)わざらしむと。

    『南史』にも、今の後インドにあった扶南国で※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)を城溝に養い、罪人あらば与うるに、三日まで食わねば無罪として放免すと見ゆ。デンネットの『フィオート民俗記』に、コンゴ河辺に※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)に化けて船をかえし、乗客をとらえ売り飛ばす人ありといえるは、目蓮等が神通で竜に化した仏説に似たり。

    ※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)の梵名種々ありて数種皆各名を別にするらしいが、予は詳しく知らぬ。その内クムビラてふはヒンズ語でクムヒル、英語でガリアル、またガヴィアルとて現存※(「魚+王の中の空白部に口が四つ」、第3水準1-94-55)群中最も大きく、身長二十五フィートに達し、ガンジス、インダス河より北インドの諸大河に棲み、くちばし細長く尾の鼻端大いに膨れ起り、最も漢画の竜に似たり。

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    「田原藤太竜宮入りの話」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

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