単式顕微鏡
小生は顕微鏡を多く持つが,右の顕微鏡は日夜入り用で,たとえばこれほど(1)の大きさにカビの全体を図にするのはこの顕微鏡に限り,他の顕微鏡を用いるといずれも大きすぎてこのように(2)そのカビの一部分しか写すことができず、不用のことに力を尽くすことが大きくて結局詳細に過ぎ大体のことがわかりにくいことが多い(※図あり。図は本で見てください。『南方熊楠コレクション〈第5巻〉森の思想』 (河出文庫) 144頁※)。
自在画法でやってのけているが、それでは諸部の大きさを精細に観測することができず、大きさの観測にはぜひカメラ・ルシダを用いることを必要とします。筒の大きさを測るのは必ずしも筒を東京まで送る必要はなく、当方で精測し、またその確かな図、すなわちこのように紙の上に筒を置き、精細に鉛筆で輪を描けばよいことと存じます。少々実物と違ってもその違いはわずかなことで、ワクの一方にこんな口があり、ネジの伸び縮めで多少ワクの径が広くなり,狭くなりして筒に合うものと存じます。
前日御恩賜のやつのワクは、その直径が小生の顕微鏡の大抵の奴に合うが,ただ右に申す顕微鏡のやつの直径より狭くて、どうしても合わないのだ。(イ)の径が(ロ)の径より短いのだ。どんなに(イ’)の口を広めても(ロ’)の径の長さほどに広まらないのだ。右当用のみ申し上げます(※図あり。図は本で見てください。『南方熊楠コレクション〈第5巻〉森の思想』 (河出文庫) 144頁※)。
早々以上
尚々
政友会が割れたことで当県の選挙界も事が難しくなり,数日前に人力車から落ち負傷したと聞く中村啓次郎氏は、和歌山市から打ち出る久世豊忠とやり合うらしい。また、岡崎邦輔氏のこれまでの独占地からももう2人候補者が出て、岡崎氏をたたき落としにかかるらしい。
こんな騒動で毛利氏も和歌山市まで帰っているけれど,今だ当地へ帰ってこない。新聞社の職工6名がストライキを起こし、数日前騒動、ようやく2名帰ってきて、昨夜出すべき新報を今夜配達したようなことである。そのためこんな際に和歌山へ上がっても、選挙のために、小生の集金などに骨を折ってくれる人はいないだろう。
しかしながら小生は、要は弟の方を片付けるのが第一義の専要事なので、その方さえ片付けばよいことで、その他の分の集金は後日としてもよろしく、あまりに弟の方を放っておいて、そのうちに不慮の災難などが起こったら、全然取り返しの付かないことになるので、とにかく和歌山辺の淡水藻や地衣の視察かたがた上り申します。
チョコレートは小畔氏が神戸から拙妻の妹方へたくさん送ってくれてある。食事などのことは小生の幼時からの交友があるのでその方でどうとでもなるだろう。貴下は何とぞ本文に申し上げたカメラ・ルシダの件をお掛け合いくだされたく存じます。
二白