(本話の出処系統4)
また考証本にこの竜女を救うてその父から金餅を得た話の出処を挙げおらぬが、予は二十年ほど前に見出し置いたから出さんに、東晋の仏陀
商人竜女の美貌を見て慈心を起しとあるが、全体竜女は婉妍人間婦女の比にあらず、今もインドで男子をして魂飛び魄散ぜしむるほどの別嬪を竜女と称うる(エントホヴェンの『グジャラット民俗記』一四三頁)くらい故、この商人も慈心も起せばほの字でもありやしたろう、この商人離車に一牛を遣るからその竜女を放てというも聴かず、因って種々
商人こんな悪人はまた竜女を取るも知れぬと心配して、その行く方へ随って行くと
この辺竜宮の門あり、二竜を
ところへ竜女来って商人を呼び入れ宝牀褥上に坐らせ何の食を食わんと欲するかと問うので、閻浮提人間の食を望んだ、すると竜女種々の珍饌を持ち来りさあお一つと
商人竜宮を見るに種々の宝もて宮殿を荘厳す、商人汝かく快楽多きに何のために布薩法を受くるかと問うと、我々竜に五事の苦しみあり、生まるる時、眠る時、婬する時、
もし人間に生まれたら何らを求むるかと問うと、出家が望みと答う、出家を誰に
宅では商人の
竜女が殺さるるところを救うたのも、竜宮へ迎えて珍饌で饗応されたのも、殊に餅金を受けて用いれども尽きなんだ諸点が合うて居るから、『今昔物語』の話は北インドの仏説から出たに相違なく、『近江輿地誌略』三九秀郷竜宮より得た十宝中に砂金袋を列せるは、たまたま
『曼陀羅秘抄』胎蔵界の観音院に