田原藤太竜宮入りの話(その13)

田原藤太竜宮入りの話インデックス

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  • 竜とは何ぞ
  • 竜の起原と発達
  • 竜の起原と発達(続き)
  • 本話の出処系統

  • (竜とは何ぞ2)

     支那に劣らずインドまた古来竜を神視し、ある意味においてこれを人以上の霊物としたは、諸経の発端つねに必ず諸天神とともに、諸竜が仏を守護聴聞する由を記し、仏の大弟子を竜象に比したで知れる。『大方等日蔵経』九に、〈今この世界の諸池水中、おのおの竜王ありて停止とどまり守護す、娑伽羅等八竜王のごときは、海中を護り、能く大海をして増減あるなからしむ、阿奴駄致あぬたっち等四竜王、地中を守護し、一切の河を出だす、流れ注ぎて竭きることなし、難陀なんだ優波難陀うばなんだ二竜王、山中を守護するが故に、諸山の叢林鬱茂す云々、毘梨沙びりしゃ等、小河水にて守護を為す〉。

    それから諸薬草や地や火や風や樹や花や果や、一切の工巧てわざや百般の物を護る諸竜の名を挙げおり、『大灌頂神呪経だいかんじょうしんじゅきょう』に三十五、『大雲請雨経』に百八十六の竜王をならべ、『大方等大雲経』には三万八千の竜王仏説法を聴くとあり、『経律異相』四八に、竜に卵生・胎生・湿生・化生の四あり、皆先身瞋恚はらたてこころまが端大たんだいならずして布施を行せしにより今竜と生まる、七宝を宮となし身高四十里、衣の長さ四十里、広さ八十里、重さ二両半、神力を以て百味の飲食おんじきを化成すれど、最後の一口変じて蝦蟇がまる、もし道心を発し仏僧を供養せば、その苦を免れ身を変じて※(「兀+虫」、第4水準2-87-29)へびとかげと為るも、蝦蟇と金翅鳥こんじちょうに遭わず、※(「元/黽」、第4水準2-94-62)げんだ[#「(口+口)/田/一/黽」、146-16]魚鼈ぎょべつを食い、洗浴ゆあみ衣服もて身を養う、身相触れて陰陽を成す、寿命一劫あるいはそれ以下なり、裟竭さがら、難陀等十六竜王のみ金翅鳥に啖われずとある。

    金翅鳥は竜を常食とする大鳥で、これまた卵胎湿化の四生あり、迦楼羅かるら鳥王とて、観音の伴衆つれしゅ中に、烏天狗からすてんぐ様に画かれた者だ。これは欧州やアジア大陸の高山に住む、独語でラムマーガイエル、インド住英人が金鷲ゴルズン・イーグルと呼ぶ鳥から誇大に作り出されたらしい、先身高慢心もて、布施した者この鳥に生まる。

      『僧護経』にいわく竜もえらいが、生まるる、死ぬる、婬する、いかる、ねむる、五時いつつのときに必ず竜身を現じて隠す能わず。また僧護竜宮に至り、四竜に経を教うるに、第一竜は黙って聴受ききとり、第二竜は瞑目ねむりて口誦くじゅし、第三竜は廻顧あとみて、第四竜は遠在へだたっ聴受ききとった、怪しんで竜王に向い、この者ら誠に畜生で作法を弁えぬと言うと、竜王そうしかりなさんな、全く師命しのいのちを護らん心掛けだ、第一竜は声に毒あり、第二竜は眼に毒あり、第三竜は気に、第四竜はさわるに毒あり、いずれも師を殺すをおそれて、不作法をあえてしたと語った。

    また竜の三患というは、竜は諸鱗虫の長で、能く幽に能く明に、能く大に能く小に、変化極まりなし、だが第一に熱風熱沙いつもその身を苦しめ、第二に悪風にわかに起れば身に飾った宝衣全く失わる、第三には上に述べた金翅鳥に逢うと死を免れぬ、それから四事不可思議とは、世間の衆生いずこより生れ来り、死後いずこへ往くか判らぬ、一切世界衆生の業力ごうりきりて成り、成ってはくずれ、壊れては成り、始終相続いて断絶せぬ、それから竜が雨を降らすに、口よりも眼鼻耳よりも出さず、ただ竜に大神力ありて、あるいは喜びあるいは怒れば雨を降らす、この四をいうのじゃ(『大明三蔵法数』十一、十八)。

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    「田原藤太竜宮入りの話」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

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