山神の小便(現代語訳)
これは白井光太郎博士の近刊『植物妖異考』にも載せていないが、熊野で往々見る。樹皮が折れて垂れ下がったり藤葛が立ち枯れになったりしたのが、一面に白色で多少光沢があるようになる。遠くから望むと作り物の小さい滝のようなものだ。
以前はこれを山の神の小便と称し、その辺に山の神が住むと心得たが、今は土地の人もこれは一種イボタに類した虫白蝋(ちゅうはくろう)と知って、那智村大字市野々で、ある人が採って来て座敷の敷居に塗りつけて、障子が快く動くと悦んでいるのを見た。
これは白井光太郎博士の近刊『植物妖異考』にも載せていないが、熊野で往々見る。樹皮が折れて垂れ下がったり藤葛が立ち枯れになったりしたのが、一面に白色で多少光沢があるようになる。遠くから望むと作り物の小さい滝のようなものだ。
以前はこれを山の神の小便と称し、その辺に山の神が住むと心得たが、今は土地の人もこれは一種イボタに類した虫白蝋(ちゅうはくろう)と知って、那智村大字市野々で、ある人が採って来て座敷の敷居に塗りつけて、障子が快く動くと悦んでいるのを見た。
「山神の小便」は『南方熊楠コレクション〈5〉森の思想』 (河出文庫)に所収
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