棄老傳説に就て
誰も知つた信州
一九〇八年板ごむの「歴史としての民俗學」第一章などを見ると、今日開明に誇る歐羅巴人の多くの祖先も
吾邦固より無類の神國で、上代の民純朴だつたは知れ切つた事ながら、時世と範圍相應に今日から見ると、奇怪な習慣も隨分行はれたは大化の初年迄人死する時、人を絞して殉ぜしめ、信濃國で夫死すれば妻を殉ぜしめたなどで訣る。
されば地方によつて老人を棄て風も有つたのだらう。昨年押上中將から惠贈せられた
さて親を棄てに行つた子が、自分も其齡になれば棄てられると考へ付いての發意で、此事が止んだと云ふのは、漢の皇甫謐の孝子傳・萬葉集・今昔物語・ぐりんむの獨逸童話其他に多く見えて、歐亞諸邦に瀰漫した譚である。
(南方熊楠)
底本・初出:「土俗と傳説 第壹卷 第壹號」文武堂店
1918(大正7)年8月
入力:高柳典子
校正:多羅尾伴内
2003年7月24日作成
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