大瀬(おおぜ)
現・和歌山県田辺市本宮町大瀬。
南方熊楠の手紙:神社合祀に関する意見(現代語訳5)
この他に熊野参詣の街道にただ一つむかしの熊野の景色の一部分を留めている大瀬の国有林も、前年村民本宮に由緒ありと称する者に下げ戻された。2000ha余りの大樹林にて、その内に拾い子谷(ひらいこだに)といって、熊野の植物の模範品が多く生息する長さ80町(※1町は約109m※)という幽谷あり。これも全くの偽造文書を証拠として山林を下げ戻されたが、只今大阪から和歌山県に渉り未曽有の大獄検挙中である。
南方熊楠の随筆:紀州俗伝(現代語訳6-1)
大師が己れに情が厚かった者に、相応以上の返礼をした例は、上述の弘法井の他に、東牟婁郡四村、大字大瀬近所に寺があり、その辺りに蒔かずの蕎麦といって名高いのがある。昔、大師がここの家に食を乞うと、何もなかったが亭主は憐れみ深くて畑に蒔こうと貯めて置いた蕎麦をある限り施したので、大師は例の石になれの咒もならず、亭主に向かい、この蕎麦の殻を蒔けと命ずる。その通りすると、殻から蕎麦が生え大いに殖え、以来毎年蒔かずに生い茂るとは有り難い。
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