猫の糞という菓子(現代語訳)

猫の糞という菓子(現代語訳)

 

 吾輩が壮年のころ(明治20年ごろ)まで東京付近にも上方にも、猫の糞という駄菓子があった。はっきりとは覚えていないが、まずはチョコレイト色で、中にエンドウ豆の屑を蔵め、そっくりそのまま猫の糞の形だった。蜀山翁が書いた物にこの菓子の名が出ていたように朧げながら記憶する。

必ずしも外国から移入した物ではないだろうが、インドにも古く同名の食品があったのは、唐中天竺三蔵大徳、阿地瞿多訳『仏説陀羅尼集経』巻12に「猫児の糞、これはこれ西国の鬼の食らう餅の名である」とあり、すなわち外道の鬼神に供える餅の名とみえる。


「猫の糞という菓子」は『南方熊楠全集5』所収。

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