衣を隠された神女
衣を隠された神女が隠した者の妻となる話が必ずしも小説にあらざるは、バルフォールの『印度事彙』に出た次の記事が立証する。
いわく、カンナノールの女主は、その隣地とラッカジヴ中の三島を、その祖先より伝え領す。この女主は回教を奉ずるモブラ人で、一族中の年長の女が女主となる。伝え言う、むかしここでナイル人の婦女の一団が水浴する場へモブラ商人どもが来た。女どもあわてて衣服を取って逃ぐるに、若い女一人、その衣を持ち去られ、水を出るあたわず、一人のモブラ男これに布を与え、身を被わしめた。そこの風で、男から衣を受けたらすなわちその妻となった訳だから、詮方なくこれに嫁した。この女は福家の一人娘だったので、王がこの女に領地を与え、世々女主に相続支配せしめた、と。