1908年11月20日:南方熊楠日記(現代語訳)

1908年11月20日

◇11月20日[金] 快晴 甚だ暖か

昨朝飯を食い、午後山中にて弁当を食っただけで(1時前、予は玉置山の社の前で水を少々筧で飲んだ。ここにもヒルデブランヂアがあった)、昨夜不眠を通したのではなはだ疲れていたが、何という地へ出るのかもわからないが、何としても人家のある所へ行き、卵でも食って眠ろうと決心し、山を下るうちに右側にはるか下の方に人家の多い高い地が見える。昨夜中鶏の鳴き声を聞いたのはここのだと知る。後で考ると土河屋(つちごや)である。予と馬吉はこれを萩と心得、もはや萩へ下ることは叶わないと思い定めながら下る。

ようやく水の流れに会い多く飲む。それから人家のある所へ出ると切畑である。向こうに見えるのが萩と聞き、大いに喜び、渡し船にて萩に行き、9時半栗山弾次郎氏を訪ねるが、不在。妻君に面し、昨夜来のわけをいい、妻君は大いに驚き、亥の子餅(餡入り)を焼き、砂糖を添えてくれる。また飯を食う。そのうちに弾次郎氏が来て話す。

馬吉は新築の病院へ行き、終日臥す。予は近所を歩くうちに田辺にて旧知の萩原米吉に会う。兄の馬吉の店が栗山氏の近所にあり、そこで働いている。栗山氏は米吉外一児に鶏を殺させ饗せられる。午後川側を歩く。それから米吉と□ノ谷の滝を見る。予は脚が悪くはなはだ困る。藻を少々とる。夜に栗山氏と萩原米吉が来る(予は新築の病院に泊まる)。談話し、大いに笑う。


メモ

ヒルデブランヂアで検索して出てくるそれらしい植物はドルステニア・ヒルデブランドティー(Dorstenia hildebrandtii)。この植物ではないように思いますが。

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1908年の日記は『南方熊楠日記 (3)』八坂書房 に所収

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