1908年11月24日:南方熊楠日記(現代語訳)

1908年11月28日

◇11月28日[土] 晴 暖

[発信]松枝 手紙1

午後、宿を出て湯の峰に行き、熱泉及び泉流の下の川中の藻を数種とる。「ユミドリ」(レプトスリクス?)もとる。乾して火で煮るという。野田が予のためにとるに、湯は甚だ熱くなかなか骨が折れる。ユノミネシダ(オンセンシダともいう)をとる。帰ると夕方である。宿の湯室のポンプが壊れて湯が行かず、夕方と夜、川端の湯窪に入る。


メモ

湯の峰温泉の源泉の湯温は90度以上で、湯の峰温泉を流れる湯の谷川は温泉の湯と上流からの川の水が混じって流れる。湯の谷川には温泉藻(おんせんそう)が生える。温泉藻は温泉に生息する藻類。50〜80℃の高温の湯の中で生育可能。

レプトスリックス属(Leptothrix)は鉄バクテリア(鉄細菌、鉄酸化細菌)。水中に生息し、水中に溶けている鉄分を酸化する際に得られるエネルギーを用いて二酸化炭素から有機物を合成する化学合成生物。酸化された鉄は鞘上に沈着する。赤褐色の沈殿物や水面に油のような皮膜が発生する。

ユノミネシダは1887年(明治20年)に湯の峰温泉で発見。熱帯から亜熱帯にかけて分布する暖地性の中型シダ植物。英名はBatwing fern(バットウィングファーン、コウモリの羽のようなシダ)。アジア、アフリカ、オセアニア、南米アメリカ大陸と広く世界に分布。日本では鉱山跡や温泉地に見られる。湯の峰温泉の自生地が日本におけるユノミネシダの分布域の北限とされ、1928年(昭和3年)にユノミネシダ自生地として国の天然記念物に指定された。その後、静岡県・伊豆半島でも見つかり、現在は伊豆半島が北限。二酸化硫黄(火山ガスの主要成分)に対して強い耐性を持つと考えられる。二酸化硫黄は植物にも有害、光合成が阻害される。東京都の三宅島で2000年に火山が噴火し、その後、ユノミネシダが二酸化硫黄の高濃度地域を中心に著しく増加した。

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1908年の日記は『南方熊楠日記 (3)』八坂書房 に所収

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