南方熊楠について


南方熊楠について

 南方熊楠(みなかたくまぐす)。1867年5月18日(慶応3年4月15日、明治になる前年)、紀州生まれ。
 日本が近代化に躍起になっていた明治から昭和の初期という時代にあって、18ヶ国語を解し、博物学、生物学、民俗学、宗教学、性愛学、エコロジーなどの様々な分野の学問を行き来し、異能を発揮した世界的博物学者です。
 日本の変形菌(粘菌)分類学の基礎を固めた生物学者であり、また柳田国男とともに日本の民俗学を創始した民俗学者でもありました。

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南方熊楠の生涯

 生まれは紀州和歌山城下。幼少時から『和漢三才図絵』全巻を筆写するなど、熊楠は和漢書により学問的基礎を形成していきました。和歌山中学卒業後、東京大学予備門に入学しますが(同期に夏目漱石、正岡子規など)、20歳で中退(年齢は数え)。アメリカに渡り遊学、隠花植物(菌類、地衣類、藻類、蘚苔類など)や粘菌を求めて各地を点々します。

  26歳でイギリス、ロンドンへ。ロンドンでは大英博物館で東洋関係資料の整理を手伝いをする仕事を得、また大英博物館の資料閲覧を許され、博物学・民俗学などの書物を筆写し、古今東西の知識を吸収。科学雑誌『ネイチャー』や随想問答雑誌『ノーツ・エンド・キリース』にしばしば論文を寄稿し、掲載され、欧米の学者に注目され、名声を高め、チャールズ・ダーウィン、ハーバード・スペンサーと並んで世界三大碩学のひとりと謳われました。またロンドンでは孫文と親交を結びます。

 14年に及ぶ海外遊学の後、 1900年(明治33年)、34歳で帰国。熊野の那智山を中心に植物の調査を始めます。3年の植物調査の後、1904年(明治37年)、口熊野、田辺を訪れ、田辺の中屋敷町に家を借り、定住しました。その2年後の1906年(明治39年)、40歳で闘鶏神社の神官の娘の田村松枝と結婚。1男1女をもうけます。

 田辺では、隠花植物や粘菌の研究の傍ら、国内外に民俗学関係などの論文を発表(熊楠は那智や田辺という日本の辺地にあっても、『ネイチャー』や『ノーツ・エンド・キリース』に寄稿を続け、『ネイチャー』には1914年まで、『ノーツ・エンド・キリース』には1933年まで論文を発表しています)。
 しかし、ちょうど熊楠が結婚した年に施行された1町村1社を原則とする神社合祀令が熊楠の植物研究に影を落とします。

 明治政府は記紀神話や延喜式神名帳に名のあるもの以外の神々を排滅することによって神道の純化を狙いました。
 熊野信仰は古来の自然崇拝に仏教や修験道などが混交して成り立った、ある意味「何でもあり」の宗教ですから、合祀の対象となりやすかったのでしょう。村の小さな神社が廃止されただけでなく、歴代の上皇が熊野御幸の途上に参詣した熊野古道中辺路王子社までもが合祀され、廃社となり、神社林が破壊されました。

 熊楠にとって神社林は貴重な生物が住む貴重な研究の場所であり、神社合祀の嵐が熊野に吹き荒れるなか、熊楠は神社林が破壊されることに怒りを爆発させ、神社合祀反対運動に立ち上がりました。地方新聞に神社合祀反対意見を投書し、住民を説得に出かけ、中央の学者に書簡で訴えるなど、神社合祀に対して死にもの狂いで闘いました。留置場に拘留され、罰金を課せられるなどの目に会いながら熊楠は命をかけて闘いました。

 熊楠の神社合祀反対運動が報われたのが、熊楠63歳、1929年(昭和4年)の昭和天皇への粘菌学の進講。熊楠が保護に努めた田辺湾に浮かぶ神島(かしま)に昭和天皇を迎え、御召艦長門上で進講。粘菌標本110点を熊楠が進献しました。
 翌1929年(昭和4年)に神島は県の天然記念物に指定され、1936年(昭和11年)には国の天然記念物に指定されました。

 1941年(昭和16年)12月、日本軍の真珠湾攻撃からおよそ3週間後の29日に、熊楠死去。享年75。田辺郊外の真言宗高山寺に埋葬されました。

 神社合祀令により熊野(和歌山県・三重県)の神社の8割から9割が滅却され、神社林が伐採されたといいますが、熊楠の働きかけにより神島、野中の一方杉引作の大クス闘鶏神社田中神社などの森や木が守られました。熊楠がもし熊野にいなかったら、それらの森もなくなっていたのかもしれないと思うとゾッとします。熊野に熊楠がいてほんとうによかったと思います。

 1965年には神島を臨める白浜に南方熊楠記念館が開館し、熊楠が1916年(大正5年)以降1941年(昭和16年)に永眠するまで終の住まいとしたは現在も田辺市中屋敷町に保存され、その隣には、2006年に熊楠の業績をたたえて広く世間に知らしめるための施設南方熊楠顕彰館が建てられました。

(てつ)

2008.10.16 UP

み熊野ねっと熊野の観光名所/南方熊楠顕邸その1」より転載、加筆訂正
(元記事は2003.5.5 UP)

もっと詳しくは「南方熊楠の手紙:履歴書(口語訳)」をご覧ください。

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