"南方マンダラ",「不思議」について,その他(口語訳24)


"南方マンダラ",「不思議」について,その他(口語訳)

  • 1 姪のこと
  • 2 イタリアの信神者の話
  • 3 英国紳士
  • 4 礼式
  • 5 聞きたがり
  • 6 春画のことなど
  • 7 人を避けるための春画
  • 8 春画の効能
  • 9 田辺に大福長者
  • 10 チバルリー(騎士道)
  • 11 高子
  • 12 愛子
  • 13 飲酒
  • 14 小乗仏教
  • 15 大乗仏教は望みあり
  • 16 時に応じ機に応じ
  • 17 禅批判
  • 18 真言と禅
  • 19 真言宗は今の世に
  • 20 科学教育
  • 21 不思議
  • 22 萃点
  • 23 tact
  • 24 発明というのは
  • 25 夢のお告げ
  • 26 真言徒がなすべきこと
  • 27 科学
  • 28 科学の他に道はない
  • 29 念仏宗
  • 30 科学は真言の一部古伝の功
  • 31 古伝の功
  • 32 科学教育をすすめよ
  • 33 自然の理
  • 34 人間の想像の区域
  • 35 二仏三仏

  • 発見というのは

     さて物不思議界は、大きさのあるものなので,また個々体が別なので,数量が間に合い幅を利かす。心不思議、また事不思議界(のうちの数理をのぞく)に至っては、大きさということがない。また断然とした個々がはっきりとしない(秀吉の一生も一生で、室町将軍15代も一生である。鎌足公から三条公までも藤家の一生で、これに天児屋根命以後のことを加えるのもやはり一生であるように)。

    ゆえに数量は便宜上そのこと履歴の遠近、相違を記する年歴の必要あるのに止まり、その方の不思議を研究して理由すなわち現象団を括り出すのには必要ない。心理学上、数の入り用なのは感覚の智鈍ぐらいを知るのに止まり、誰は誰より何倍賢いとか、秀吉の望みは謙信の望みの10倍などということは言われない。

    だからこの方の研究には、数量よりも右の tact が入り用かと思う。近頃、形以下の学が大いに発達して蓄音機から、マルコニの無線電信、またX光線が出来る。それからまたラジウムといって、自体に強熱を蓄え、またみずからX光線を発する元素を見つけ出す。次いで、井戸の水にこのような性質のものが所々にあることを見つけ出す。

    金粟は負け惜しみに言うのではないが,自分はいろいろ植物の発見などをして知った。発見というのは,数理を応用して、また tact にうまく行き当たって、天地間にあるものを、あるままに、あると知ることに他ならない。

    蟻が室内を巡歴して砂糖に行き当たり,食えるものと知ることに他ならない。蟻の力で室内にない砂糖を現出させるのでも、今まで毒物であった砂糖を甘味のものに変化させるのでもない。

      雷有終であったと思う。『荘子』を人が誉めるのを聞いて1冊求めて読んでみて、たちまち「これはまた人の心がわかっていることを人の心にわかりやすく言ったに過ぎない」と言った。じつに万事この類である。

     一例を言うのに、数量のことは予期が確かであれば例を挙げるまでもないので、tact のことを言おう。明治23年、予はフロリダにいて、ピソフォラという藻を見つけ出す。これはそれまでは米国の北部にだけ見たものである。

    さて帰朝して一昨年9月末、吉田村(和歌山にある)の聖天へ参ると、必ず件の藻があるという夢をいつも見た。そこで10月1日、右の聖天へ参りはしないが,その辺をなんとなく歩くと、一向にない。さて、予の弟が出務中である紡績会社の辺に池を掘ってある(これは小生が国にあるときはなかったものなので、小生が知るはずがない)。

    それに黒みがかった緑の藻が少し浮かんでいる。クラドフォラという藻と見えた。それはいらないので、放って帰ろうとする。しかし、何も採らずに半日を費やしたのもいかがと思い,、どんなものか、小児にでも見せて示そうと思い、採って帰る。さて顕微鏡で見ると、まったく夢に見たピソフォラであるばかりか、自分が米国で発見したのと同一種であった(英国の『ネーチャー』に出した)。

     小生は夢など信じるものではない。また、東西半球をへだてて、このような希有のものがあるとは思われない。

    (この属の藻はすべて西半球にだけ産していたのだ。ただし、南米の蓮に付いてキュー王立植物園(※英国ロンドンにある植物園。2003年に世界遺産に登録※)へ来て、ちょっと繁ったことがある。また、その後,右の発見を公示したの対し、小生が知らない間に、日本から遠いセイロン、アフリカ、南洋のサモア島、東半球で3種発見していることを言いに来た人がいる。

    また、予の発見したのは、この属の1種の1亜種であるのだ。亜種というものは、多くは一偏地方に産するもので,このように太平洋をへだて、その上,中、西の米国をまったくへだてているほどの距離に、同一亜種が産するのは稀な例である。)

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    「"南方マンダラ",「不思議」について,その他」は『南方熊楠・土宜法竜往復書簡』『南方熊楠コレクション〈第1巻〉南方マンダラ』 (河出文庫)に所収。




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