厠神(現代語訳2)

厠神(現代語訳)

  • 1 トイレの神様
  • 2 印度中国のトイレの神様
  • 3 厠を尊ぶこと

  • インド、中国のトイレの神様

     

     このような食不浄悪鬼を祀ることから、自然、厠神の観念を生じたのだろうか。劉栄訳『弥沙塞五分律』二七に「1人の比丘がいた。小便をしてはならない所で小便する。鬼神がその男根をとらえ、牽いて木陰に行き、大徳まさにこの所で小便しなさい、と語って言った」。これは厠神ではない。僧が厠の外に放尿したのを、その所の鬼神が戒めたのだ。

    『僧壱阿含経』四四に仏未来弥勒仏の世界を記す。「鶏頭城中に羅刹鬼がいる。名づけて葉華という。法にしたがって行い、正教に違わず、常に人民が寝た後を伺い、穢悪した諸不浄のものを除き去り、また香汁をその地にそそぎ、きわめて香浄となす」。これは好意で人糞を掃除する鬼神である。

    インドの呪法の中に厠に関するものがある。例えば、不空訳『大薬叉女歓喜母並愛子成就法』に「貴人の歓喜を得るには、その人の門下の土を取って、唾を合わせて玉にして、108遍加持して厠の中に置けば、その人は必ず相敬順し歓喜するだろう」。(※略※)

     『普明王経』に、阿群が仏法に帰依し比丘となり、王が一度この比丘を見ようと望んだが、この比丘は瞳が輝き対面しがたいので、王は比丘を厠の中に呼んで見ることがある。『書紀』二に、猿田彦大神は眼力が強く、八十万神みな眩しくて相問うことができない、とあるようだ。(※略※)

    糞穢で邪視を破ることは、かつて『東京人類学会雑誌』〔「出口君の『小児と魔除』を読む」〕に述べてある。無能勝三蔵が訳した『穢跡金剛説神通大満陀羅尼法術霊要門経』には、仏が涅槃に入って諸天大衆がみな来て供養したが、螺□梵王だけが来ない。(※略※)

    『人類学雑誌』29巻2号の83頁に『淵鑑類函』より引かれた「厠神の姿は大豚のようだ」と言った話は、支那でも朝鮮、琉球などと等しく、厠に豚を飼って糞を食わせる風習があったことに基づくのであろう。『漢書』に「賈姫が厠に行く。豚がいて、厠の中に入る」とある。また呂后が戚夫人を傷害して厠の中に置き人豚と名づけたことがある。(※略※)

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    「厠神」は『南方熊楠コレクション〈第2巻〉南方民俗学』 (河出文庫) に所収。

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