本邦に於ける動物崇拝(現代語訳16)

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本邦に於ける動物崇拝(現代語訳)

  • はじめに
  • 海豚
  • 鶺鴒
  • 野槌
  • 海亀

  • 鶺鴒(セキレイ)

    鶺鴒
    セキレイ wagtail / naitokz

     鶺鴒、伴信友の『比古婆衣』巻十八に、「黄鶺鴒をニハクナギ、背黒鶺鴒を石クナギという。男女交接のとき、男の行いをクナグと唱えるのだ」という。イザナギ・イザナミの2尊に男女の大道を教え奉った鳥なので、和泉式部も。「逢ふ事の稻負せ鳥の教えずば、人を恋路に惑はましはや」と詠じ、川柳でも「鶺鴒も一度教へて呆れ果て」と詠んだ。

    古、西アジアのアスタルテ神の秘密儀は、神林の中で行われたが、その林に信徒より奉納した鶺鴒が鳴き遊んでいた。術者はその肉を媚薬に作った(Dufour, 'Historie de la Prostitution,' tom. i. p. 40, Bruxelles, 1851.)というが、我が国では古来この鳥を尊崇したことを聞かないのは、はなはだしく恩に背くことだ。支那では諸本草にこれを載せず、『大清一統志』にその名があり、産地を挙げている。媚薬に用いたのであろうか。

    ただし予が今住んでいる紀州田辺では子供がこの鳥を見る毎に「ミコテウ尾を振れ杓に1盃金やろう」と呼ぶ。子細を詳らかにしないが、古、この鳥を見るとき祝して、吾にも急に汝のようにクナガさせよと望むのを常習とした遺風ではと思われる。伴氏は山城辺の子供が鶺鴒を尾びこ鳥というと述べている。尾をピコピコ揺らすの意味か。熊楠が慎んで考えるに、交合をマクという詞が『古近著聞集』に見え、『南留別志』に「ミトノマクハヒという詞、ミはメオトである、マクハヒは今でも田舎でメグスという」とあるのでこれらよりミコテウの名ができたのか。支那の厩神像が鶺鴒を踏んでいるのも(『類聚名物考』巻一四四)この鳥の動作が乗馬に似ているのに基づくのであろう。

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    「紀州俗伝」は『南方随筆』(沖積舎) に所収。

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