馬に関する民俗と伝説(その19)

馬に関する民俗と伝説インデックス

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     三年前、南洋の各地を視察した長谷部博士の説に、トルク島人闘う時対手あいてやその近親の陰部に関し聴くに堪えぬ言を闘わし、マーシャル島人また仇敵の母の陰部を悪口する由(『人類学雑誌』三十巻七号二七八頁)。

    『根本説一切有部毘奈耶』に、仏の弟子※(「烏+おおざと」、第3水準1-92-75)陀夷うだい人相学にくわし、舎衛城内を托鉢して婆羅門居士の家に至り小婦を見、汝の姑は如何いかんと問うと、兎が矢にあたったように暴悪だと答う。

    ※(「烏+おおざと」、第3水準1-92-75)陀夷曰く姑の過ちでない、彼の両乳の間および隠密処に黒黶くろぼくろと赤黶と旋毛つむじ、この三の暴悪相があるからだと教えじきを受けて去った。その後またその家に至り姑に汝の※(「女+息」、第4水準2-5-70)よめは如何と問うと、仕事無精でいかり通しだと答う。

    そこで前同様に教え食を受けて去った。他日他の居士の家に説法した時、その姑に※(「女+息」、第4水準2-5-70)の事を尋ねると、うみの娘同様孝を尽くしくれると悦び語る、※(「烏+おおざと」、第3水準1-92-75)それは彼の徳でない、両乳の間と隠密処に善き相があるに因ると教え、その後またその※(「女+息」、第4水準2-5-70)に姑の事を問うと、実の母のごとく愛しくれると答うるを聞き、それは姑に善い相がある故と告げて去った。ほど経て姑と※(「女+息」、第4水準2-5-70)と浴してからだあいぬぐうとてひそかにるに、※(「烏+おおざと」、第3水準1-92-75)陀夷が言った通りの相あり。

    その後姑と※(「女+息」、第4水準2-5-70)喧嘩けんかに際し、姑まず※(「女+息」、第4水準2-5-70)に向いこの姦婦かんぷめと罵ると、誓言してそんな覚えなしと言い張る。姑すかさず、もし覚えなくんば他人が汝の隠処に黶等あるを知ろうはずなしという。

    ※(「女+息」、第4水準2-5-70)またそんならそっちも姦通したに相違ないとてその陰相を語る、二人とも変な事と気付いて懺謝し、誰が汝に相を告げたかと相問うと、いずれも※(「烏+おおざと」、第3水準1-92-75)陀夷から聞いたと答え、大徳何に因ってことさらに我らを悩ませるぞと憤る。

    そこへ老いた比丘びくが托鉢に来たので、※(「烏+おおざと」、第3水準1-92-75)陀夷はどんな人と問うと、大臣の家に生まれたが出家したと答う。姑彼持戒の出家なら女人の陰相などを知るはずなしというと、人相学に通じて知るという、姑そんな事を知ったからって皆人に告ぐべけんやと打ち返したので、老比丘閉口して寺に帰って仏にもうすと、わが弟子ども今後俗家で女のために説法すべからずと戒めたが、それでは実納みいりが少ないから男子ある側で女人に説法すべしと改めたとある。

    インドなど、人が多く衣を重ね着ぬ熱地では、かかる事を学び知る便宜が遥かに他より多かるべく、したがってそっちの研究はよほど進みいただろう。それと同時にかかる相好そうごうを覚え置いて人を罵るに用いた輩も多かったと見え、『四分律』三に人の秘相を問いまた罵るを制しあり。

    『十誦律』四七、比丘尼に具足戒を授くるに先だち、あらゆる事どもを問うて真実に答えしむ。
    〈我今汝に問う、汝これ人なりやいなや、これ女なりやいなや、これ非人にあらざるや、畜生にあらざるや、これ不能女人にあらざるや、女根上に毛ありや〉
    と、これかかる者を完全な人間と見ず、受戒をゆるさぬ定めだったのだ。

    この辺でもかかる女を不吉とし、殊に農家は不毛を忌む故、そんな者をめとれば隣家までも収穫を損ずとて甚だ嫌う。これらは真に一笑に堪えた迷信と看過してやまんが、今日までも西洋の医家に頑説多い。

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    「馬に関する民俗と伝説」は『十二支考〈上〉』 (岩波文庫)に所収

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